夏が近づくと聞きたくなるアイリッシュ・ミュージック。
爽やかな音色は初夏にぴったりですよね。
また厳しくも苛烈な歴史を生きてきた彼らの重厚なサウンドは、雄大な自然のほかに見落としてはいけないこの国の本質を私たちに教えてくれます。
一方でクリエイティブなカルチャーを常に生み出し続けている一大文化国家の一面もあり、イングリッシュカルチャーと一線を画すその独特の佇まいには、じわじわと惹かれていく人も多いのではないでしょうか。
爽やかなのに重く堅く…そして独創的。
ミスマッチのように感じるこれらの要素ですが、これから紹介するアイルランド音楽からはきっとその全てが感じられると思います。
アイルランド音楽をより身近に感じるために
アイリッシュミュージックはとても深くて美しい中毒性があります。
その魅力を探るうえで、知っておくとよりアイルランド音楽を楽しめる4つの要素を簡単にまとめてみました。
ケルト文化
アイルランド音楽=ケルト音楽と表現されることもあるぐらいとても大切な要素です。
実際はヨーロッパの別エリア(フランス、スペイン)にも広がっている文化コミュニティーですが、やはりバグパイプやアコーディオン、フィドルなどの音色を聴くとスコットランド、アイルランドあたりを思い浮かべることが多いのではないでしょうか。
ケルト文化は文字で言葉を残すことをよしとせず伝承や口承で広まったという特性も、ケルト音楽を聞く大きな魅力の一つです。
アイリッシュダンス
もともとのアイルランド音楽はアイリッシュダンスを踊るために作られた音楽だといわれています。
アイリッシュミュージックの演奏法でリールやジグというタイプのものがありますが、リールなどはそのままダンスの名称にも使われています。
イギリスへの抵抗に由来するダンスの起源も含め、音楽と同じく二国間の関係性に深く関わる大切な文化です。
アイリッシュパブ
これはもちろんはずせない!
アイルランド音楽は人々の公的な社交場で演奏され親しまれているので、かしこまらず気軽に聴ける音楽でもあります。
ギネス片手に手拍子をしながらダンスや演奏を楽しむ…これならすぐにアイリッシュミュージックを聞き始めたくなるはず(笑)
イギリスとの関係(宗教/ジャガイモ飢饉/アイルランド移民)
イギリス-アイルランドに根差す長く哀しい歴史をほんの少し頭の片隅に置いておくだけで、アイルランド音楽の郷愁の響きがより近くに感じられると思います。
とくにカトリックとプロテスタントによる宗教対立、ジャガイモ飢饉による大量の餓死者、そしてあまりの飢えに自国やイギリスに救いを見出せなくなった末、“自国脱出”するしか術がなくなったアイルランド移民たち…。
なぜアイルランドの曲が少しさみしげでそれでも凛として響くのか、その答えがこの二国間の歴史に詰まっています。
注)筆者はアイリッシュカルチャーもイングリッシュカルチャーも好きです。
多彩でクリエイティブな音楽
アイルランドには民謡や伝承歌から、クリエイティブなヒップホップ、ポップスまでとても多彩なジャンルの音楽があります。ここではそのほんの一部を簡単にご紹介します。
トラディショナル系
◆Seo Linn- Siúil a Rún
Seo Linn(英:Here We Go)は2013年から活動するフォークバンド。
2018年にはアルバム『Solas』が NOS MUSIC AWARDS(Irish Language Music Awards)にてアルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞しています。
普段はポップロックに近い曲を多く発表していますが、これを聴いたときはもうね。言葉にならないほど興奮した。
ラストの力強い独白とカルマ的バックサウンド、マジたまらんのですが。
曲は代表的なアイルランド民謡。兵役に旅立つ恋人を思う女性の心情を歌っています。タイトルは英訳で Go, My Love。私の思いよ彼に届け、のような意味合いかな。
◆Lankum-The Wild Rover etc.(From Tiny Desk Concert)
ちょっと長めの曲ですが 7:10~厚みが増してくるのが快感。
民謡と聞くとちょっと畏まってしまったり、なにか呪術的なものを感じて自発的には聞きにくい、と思う方もいるかもしれません。
でもこうやって実際に演奏者を前にするとだいぶ印象が変わりませんか?筆者もこの有名番組に出演しているとは知らなくてびっくりしました…でも嬉しい。
LanKumは、BBC Radio2 FolkAwards において2018年にベストグループ賞を受賞している実力派バンド。Radie Peat はその歌唱力にも高い評価を得ています。いつか必ずライブに行きたいバンドです。
アフリカン-アイリッシュ
◆Denise Chaila-061
今アイルランドのミュージックシーンで熱い注目を浴びているのが2019年にデビューした Denise Chaila。
ザンビアにルーツをもつヒップホップシンガーでこれまでにEP1枚、オリジナルアルバム1枚をリリースしています。
ありそうでなかったサウンドでそこはかとなくケルティックをにおわせているのが癖になります。
余談ですがアイリッシュバンドの重鎮クラナドともコラボしていて(オリジナルはU2ボノとの有名コラボ曲)、Denise の抜擢含め両者さすがだな~と思ってしまいました。
ポップス
アイルランドの音楽はポップスのメインシーンにおいて特別な存在感を放ってきました。
時にポップスに寄り添い、時に革新的に。それでもどことなく「あ、アイリッシュだな」と思う輝きがちりばめられていて、その手法はとても鮮やかなのです。
◆The Corrs-Runaway
世界的な人気を博しアイリッシュポップをメインシーンに押し上げた最大の功労者。
The Corrs(ザ・コアーズ)の音楽はとにかく爽やかで聞き心地がよく、初夏にうってつけのものばかりです。
彼ら以上にケルトとポップスを上手くミックスしたバンドはいないのではないでしょうか。コア―兄妹自らが奏でるサウンドもとにかく美しいのです。
◆Wyvern Lingo - I Love You, Sadie
一度聞いたら忘れられない、やみつき系インディーポップ。
Hozier のツアーサポーターも務めたことのある新進気鋭のポップス・ハーモニー・トリオです(楽器もプレイします)。
独創的でありながら実力派のボーカリストで、新鮮さだけではなく味わい深い歌唱が聞けます。個人的にもっと注目されてほしいグループです。
◆Home Town-Roses
アイルランド出身によるボーイズバンド。
ウェストライフ以来の大型アイルランドユニット、キターーー!と、筆者はめちゃくちゃ盛り上がっていたんですが2016年に解散…。活動期間約2年はさすがに短すぎる(涙)
にも関わらず、曲よし・個性(歌声)よしで、伸びしろしか感じなかったから余計に残念。せめてここで紹介したかったんです…。ちなみにこの中からソロでユーロビジョンアイルランド代表になったメンバーもいるのですよ…(ニヨニヨ)
フォーク
◆A Lazarus Soul -Long Balconies
国内評論家からも支持を得ているフォークバンド A Lazarus Soul。郷愁とともにピリつく痛みの表現が胸に刺さります。
みずみずしい感性で作られる曲たちは、例えバンドの存在を知らずとも思わず聞き入ってしまう不思議な魅力があります。
とくにこの曲が収録されているアルバム『The D They Put Between the R&L』は良曲揃いでとくにオススメです。
◆David Keenan- Tonight I Want To Lie With Someone Who Doesn't Care
もう少し注目されてもいいんじゃないの…と一人ごちてしまうぐらい素敵な才能の持ち主。ジェフ・バックリーが好きな方にはとくにおすすめです。
この曲は比較的聞きやすいですが、前衛的な曲も非常にうまくコントロールできるアーティストなので聞く人を選ぶようで選ばないと思う。
2021年6月10日にお披露目された「Bark」では中東トライブサウンドも織り込まれていて、個人的にすごく好きだったな。
彼の口の中からは音と空気を通して次々と生命力に満ちた言の葉が飛び出してくるのです。ぜひこの心地よさを多くの人に味わってほしい。
あとがき 時には冷えも熱さを招く
アイルランド音楽を聞いているとき、私は必ず冷えと熱さを感じます。
厳しい自然環境からくる対外的な冷え、それらをともに乗り越えてきた人々の生命の熱。
時に隣国との関係で強烈な冬を迎え、時にはそれを覆いつくすような激情の迸りも抱えている。
普段は穏やかな気質ながら、じっと腰を据えたまま譲らない一点を見つめるその強さには、どこか日本(とくに佐幕派会津)の武士道に通ずるものがあるような気がして、
私にとってアイリッシュミュージックは世界中の音楽のなかでも特に近い場所にある音楽です。
このほかにもアイルランド音楽、そしてアイルランド文化は魅力的なものばかりですので、機会がありましたら二度と戻れない“ケルトの森”を彷徨ってみるのもいいかもしれません。
▼一部参考にさせて頂いたサイトはこちら。
・The best 50 Irish music acts right now – in order
・The Best Irish Music and Bands To Know in 2020 - Paste
▼そのほかアイルランド・イギリスの音楽について扱った記事はこちら
Thank You For Reading.