今年、おそらく人生で初めて8月15日に黙祷するのを忘れた。
今まで仕事中だったり出先だったりで、出来なかったことはあるけれど、意識的にずっと心のどこかに「それ」はあった。
けれど、今年は出来たはずなのに(就業中ではあったけど)失念してしまったのだ。
周囲はどうということもなく過ぎていったけど、私のなかではなかなかに自分にショックを受けた体験だった。
ただ、すぐに反省として考え直しもした。
この日に出来なかったからって何?いつでも、どこでだってすればいいじゃないか。
ということで、その日帰宅してから夕飯を食べる前にそっと目を閉じた。
そんなわけで、今回は「その日」を忘れた自分への戒めも含め、でも思い出したかったという自分への希望も込め、平和を希求した音楽についてまとめてみた。
こういった内容も、もうだいぶ繰り返し記事にしてきた。正直、またかと思われてもいるかもしれない。
それでも書いてしまうのはある種わたしの習性であり、自分が納得できる生き方の一つのような気がしているので仕方ない。
今回は解説のボリュームも多め。
それでもいいよという方はどうぞおつきあいくださいませ。
- People Have The Power-Patti Smith
- What's Going On-Cyndi Lauper
- Change-Christina Aguilera
- Lean on Me - Bill Withers
- Gasoline-Maneskin
- One-Mary J. Blige,U2
- Square Dance-EMINEM
- ショパン『革命』- 辻井伸行
- オルフェンズの涙-MISIA
- Look at the World - John Rutter
People Have The Power-Patti Smith
ニューヨーク・パンクの女王、パティ・スミスの民主主義を代表する名曲。
ここで歌われる歌詞は、まるで民主主義の教科書にそのまま掲載してもいいような威厳と説得力、そして人々を前進させるパワーがある。「一人一人には力がある」ということがシンプルに、そして清々しく歌われている曲だ。
でも、これが一番難しい。
一人でも為政者を恐れたり、自己保身の欲に染まってしまったら、それはそのが戦争の人質になってしまったということ。次にその人の家族、関係者、雇用者…と芋づる式に弱みを握られてしまう。だから一人一人が独立して自分を説得し、立ち上がることが必要なんじゃなかろうか。
犠牲を恐れるな、ということではなく、まず犠牲を出させない構図を自分たちで作る。
そんなことをパティは懇切丁寧に、何度も何度も説いているような気がしてならない。
the shepherds and the soldiers lay beneath the stars exchanging visions
and laying arms to waste / in the dust
この情景的な歌詞が昔からお気に入りです。
What's Going On-Cyndi Lauper
マーヴィン・ゲイの名曲をカバー。
学生の頃、なぜかシンディー・ローパーの『True Colors』を狂ったように聴いていた時期があり、いいのか悪いのか実はこの曲も本家より馴染みが深い。
デビューしていきなり売れて(下積みは長かったけど)、急遽の抜擢で『We Are The World』にも参加。
ジャラジャラのアクセサリーをマイクにぶつけてしまい「あ、ごめんなさい~💦」と、大御所たちの前であたふたしていた彼女がずっと好きだ。
最初に笑ってくれたキム・カーンズも印象的だったな~。このドキュメンタリーの、年齢的&キャリア的にシンディの末っ子感ったらハンパない!
愛嬌があって、平和に対してまっすぐで、でも陽的カオスもしっかり持ち合わせている不思議な人。惹かれる人。
こちらのインタビューはザ・シンディー・ローパーって感じで好きだ。
Change-Christina Aguilera
オーランド銃乱射事件(2016年)の被害者へのチャリティーの一環で制作された曲。
アギレラはパワフルな歌唱がイメージにあるかもしれないが、個人的には溜め息をこぼすぐらいに抑えた声が魅力的に感じることも多い。そしてほとんどのアーティストがそうであるように「伝えたいことがある歌手」は自然と凛としていて、不思議なパワーをまとうものだ。
この曲はそんな彼女のなかの静と動がうまく共存している名曲。しずしずと紡がれるゴスペルバラードのサウンドをバックに、アギレラの声は時にそこへ近づき、時に力強く飛び立つようにくっきりと浮かび上がる。
決して押しつけることのない祈りの歌は、かえって私たちを惹きつける。派手さはないものの、批評家のなかではとくに多くの高評価を得た曲で、アギレラの歌い手としての凄みが改めて証明されたように思う。
Lean on Me - Bill Withers
戦争や平和だけでなく、人と人とのつながりについて率直に、そして温かく歌った名曲。
Lean On Me, Call Me…と繰り返されるたびに、少しずつこちらの肩の力が抜けていき歌詞のように「頼ってみるのもいいかな…」と自然と心動かされるのが凄い。楽観的と言えば楽観的なのだけど、このぐらいのテンポが必要なときもあるものだ。
「今、自分は弱っている」
「それを誰かに見せて分かってほしい」
そんな気持ちの揺らぎを、当たり前のものとして扱ってくれる目線が優しい一曲。
コロナ禍の2020年3月30日に逝去されたビル。ちょうどみんなが未曾有の危機に共に立ち上がろうと模索しているさなかでした。
こちらの動画では多くの有名アーティストがビルの意志を受け継ぎ、隔離を余儀なくされた世界で、この曲を歌いながら連帯を示しました。
自分が大変なときにも「出来ることがあれば頼ってね」と、軽やかに言える人になりたい…とは思うけど、実際は難しい。
でも実は、あなたも私も「同じなら」そんなに難しいことじゃないのかもしれない。
Gasoline-Maneskin
Stand Up For Ukraine のために書きおろされた一曲。多忙を極めるなかで、よくこんなモーネスキンらしさ全開の反戦歌を書けたものだと心底驚いた。
曲はスタート&ストップを繰り返し多少トリッキーに作られているけど、コーラス部分は一発で覚えられるようなパンチラインになっていて、その対比も興味深い。
平和を歌うというよりは抵抗を唱えるスタイルも、さすが話題をかっさらった「ロックバンド」という感じ。気持ちを癒し、平和を尊ぶ曲はもちろん必要だけど(時代的な背景なのか)怒りやフラストレーションを受けとめてくれるパンチ曲が少ないのも気になっていたから、彼らがその穴を埋めてくれた気がしてすごく頼もしかった(何様)。
個人的にもっともっと評価されていい曲だと思うし、より多くの会場でパフォーマンスしてほしい。
One-Mary J. Blige,U2
U2の名曲をメアリー・J・ブライジがコラボカバー。オリジナルよりも華やかさが加わり、音楽的な展開も分かりやすい。
ボノはメアリー・J・ブライジにリードを譲る形になっていて、彼女特有の軽やかで張りのある声が、大サビに向けての盛り上がりとマッチし情熱的なナンバーになっている。
メアリー・J・ブライジのアルバム『ザ・ブレイクスルー』収録。世代なのでこちらもよく聴いた。
この曲はシンプルな平和ソングではなく、ある種の諦めの曲でもある。
平和がいいとか悪いとかではなく、そもそも私たちは一つに治まって生活しているのに、互いに他人であることは変わらない。だからこそ助け合わないと、もろともに大変になことになる。
そんな「こういう構造なのだから、平和にすることが理にかなっている」という、なかなかに冷めた曲なのだ。
One life But we're not the same
We get to carry each other
けれど、私はこの意味だからこそ感銘を受けたし、この歌詞に何度も救われてきた。
悪い意味ではなく「諦念」という言葉をこのブログでも多様しているのも、ボノのこの歌詞に影響を受けたからかもしれない。
Square Dance-EMINEM
エミネムが社会派なのかは微妙なところだけど、実際数々のプロテストソングを歌ってはいる。
当然ヒップホップ自体がプロテスト(抵抗勢力)畑出身だからではあるのだが、だからといって手当たり次第、体制全てにNOを突き付けているわけでもないので、エミネム自身興味のある社会的テーマがはっきりしているとも言える。
この曲は9.11以降、テロ報復に傾いたブッシュ政権を痛烈に批判している曲だが、同時に自分の邪魔するもの全て、「新兵プログラム」や「ほかラッパー」などにも白羽の矢は当てられている。
この“自分の邪魔するもの全て”という表現はラッパー特有の免罪符ワードなのだけれど、少なくともエミネムには彼なりの解釈が一貫して存在していて、それをリスナーと明確に共有出来ているので、社会派ソングも厳かに、そしてクールに受け入れられているのかもしれない。
このアルバムは昨年で20周年を迎えた。何度聴いても、どんな角度で聴いても、傑作と思わせる作品の一つだ。
ショパン『革命』- 辻井伸行
変態が過ぎるが、最近エミネムと辻井さんの曲を交互に聴くという、劇薬とサプリメントをちゃんぽんするような感覚にハマっている。なので、その快感を味わっていただきたく、ここでも並びにしてしまった。
辻井さんの演奏に言葉は不要だけれど、とにかく「しがらみがない」というのが私が常に受ける印象だ。
苦しい曲、愛しい曲、魂に寄り添う曲、コロコロした曲…クラシックには無限の表情があるけれど、辻井さんの奏でる旋律は「苦しい曲のなかに囚われている表現」はあっても、その表現にいっさいのしがらみがない。
ポーランドの偉大な作曲家、ショパンの『英雄』は、第一次世界大戦当時の悲惨な情勢のなか書かれた曲だ。
けれど辻井さんの音色からは嵐が目の前を過ぎ去っていくような感覚があり、もちろん体は嵐のせいで散々でボロボロなのだけど、悲壮を悲壮で終わらせず、聴き手が次の展開を待つような一種の「前進」を表現しているようにも思える。
オルフェンズの涙-MISIA
『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のエンディングといえば「フリージア」と答える人が圧倒的に多いかもしれない。
けれど私はガンダムシリーズにブルース的懐古主義、そして「平和への青写真」としてのやるせなさというイメージが昔から強烈にあったので、この曲はものすごく刺さった。
この時代に 愛を歌う ブルース
もはやこの歌詞だけで全てのガンダムシリーズを包括できるのではないかというほど、完璧にガンダムな歌詞だ。
MISIAはこのソウルフルな曲をギリギリのところで抑え気味に歌っており、それが余計にこちらの胸を苦しくさせる。
Look at the World - John Rutter
John Milford Rutter は、イギリスの作曲家で主に合唱界で活躍している現代音楽家。
日本でも人気のあるケンブリッジ・シンガーズの創設者で、レクイエムやキャロルなど、多くの宗教曲を録音している。
ラターの曲は崇高ではあるものの、厳格ではない。
どの曲も日常の美しさや悲しさ、そして慈しみに溢れた曲で、宗教の壁を越え万人に愛される作品となっている。Libera などが好きな方は好みではないだろうか。
「世界を見てごらん」と始まるこの曲は、どんなに醜くくても、どれだけ人類が愚かでも、この世界を信じてみようかという気持ちをそっと後押ししてくれる。
Think of the spring, think of the warmth of summer.
Bringing the harvest before the winter's cold.
Everything grows, everything has a season,
この歌詞は、お気に入りの部分。
おそらくはキリスト教における実りのサイクルを歌っているのだろうが、私たち日本人にとっても、四季の巡り、または自然や人の命の循環に通ずるものがあり、全てのことは「めぐっていく」という普遍の理に共感できる歌詞の一部だ。ぜひ多くの方に聴いてもらいたい一曲。
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今年もまた、夏を見送る時期となった。
夏の終わりは、私にとってどの季節の終わりよりも切なく、感傷を刺激するシーズンだ。
世界ではまだまだ問題が山積みで、戦火も収まる気配はなく、地球は熱くなり続けている。そして私個人も一人のちっぽけな人間として、仕事に家庭に、悩みが尽きることはない。
それでも、年に一度くらいは。
いや、きっと別に期間はなんだっていいんだ。
あっ…と思ったその瞬間に、心の引っかかりを見落とさず、一度ちゃんと立ち止まり、平和や戦争について思いを巡らせる一日があるといい。
きっとその経験が、何か過酷で大きな選択を迫られたとき、誰かや何かを信じようとする力になってくれる気がするから。
▶そのほか、平和に関する記事はこちら。
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ここまでお読みいただきありがとうございました!
今後も色々な音楽を聞いてブログに書いていきたいと思いますので、お時間があるときにおつきあい頂けたら嬉しいです!
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