ピアノの音、皆さんはどんなときに聞きたいですか?
この楽器が音楽に与えてくれるものは本当にたくさんあって、なかなか言葉にするのも難しいものですが、
曲中にピアノの音色があると、その曲にはとても豊かな深みがでてくるように思います。
ときには品位や凛々しさ、人間としての尊厳もそこに加えられるかもしれません。
そんな理由からか、筆者は気分が晴れないこの梅雨の時期によくピアノがフューチャーされた曲を聞いています。
そこで今回は【ピアノの音が魅力的な洋楽バラード】についてご紹介。
ピアノが目立つ音楽ではなく、人の声に寄り添ってくれるような音色を重視しましたので、一息つきたいとき、なにかを振り返りたいときなど、
単なる伴奏としてではない、名バイプレイヤーとしてのピアノサウンドをじっくり味わっていただけたらと思います。
- Rina Sawayama,Elton Jhon - Chosen Family
- Sara Bareilles - Gravity
- Duncan Browne-Cast No Shadow
- Wouter Hamel & Penny Police-Traveling Alone
- Donny Hathaway- A Song For You
- あとがき ピアノの音色と生き方の美しさ
Rina Sawayama,Elton Jhon - Chosen Family
イギリスを拠点に活動する日本人シンガー Rina Sawayama リナ・サワヤマ が Elton John エルトン・ジョン を迎えてデュエット。
ジェンダーのカミングアウトの際に生じる家族との隔たりや孤独(時に暴力)に、優しく力強く寄り添ってくれる美しいバラードになっています。
何といっても冒頭のイントロ。このピアノの音にすごく引き寄せられる。
まだ探り合い少し気恥ずかしさもありながら、だんだんと互いのストーリーを分かち合う様子が、とても繊細に表現されています。
ラストの大サビにおける、新しい門出を祝福するファンファーレのような三連符(それでもちょっぴり控えめなところがリアルでいい)にも注目です。
ジェンダーの問題に限らず、
家族と馴染めない人、家庭内でひどい支配下に置かれている人、養子縁組で互いに悩んでいる家庭、Blended Family など、“家族”と定義されるコミュニティーの問題について、とても広くカバーしている曲。
“We don’t need to be related to relate”
つながることを目的にした つながりなんていらない
この歌詞のように、多くの人が心から信じ合い「一緒に生きていきたい」と思える人と
堂々とつながりがもてる社会に近づけたらいいですよね。
Sara Bareilles - Gravity
この曲を初めて聞いたとき、
これほど美しいメロディーがまだ残っていたのか…と衝撃を受けました。
“どこにいても どうしていても あなたに惹かれてしまう”
相手を「思う」ことへの苦しさを、それを超えた抗いがたい自然や科学現象の域での苦しみにまで転換し、不思議で壮大な切なさを表現した曲です。
弦楽器が相手の駆使する抗えない Gravity とするならば、それに毅然と立ち向かい自立しようとしているのが主人公の思いをのせたピアノ、なのかな…。
この二つが絡み合い、感傷に浸り、ピアノが弦楽器に噛みつき、弦楽器がピアノを誘いこみ…
そしてエネルギーのぶつかりが最高潮に達したとき、何かから切り離されたかのように響く Sara のボーカルが鋭く深く胸に刺さります。
まるで映画『インターステラ―』を見ているように、四次元的な何かの中を彷徨っている、そんな感覚を覚える曲です。
すべてのサウンドに意味をもたせることも含め、さすが Sara Bareilles サラ・バレリス という感じ。
Duncan Browne-Cast No Shadow
1970年代に活躍したイギリスのシンガーソングライター、Duncan Browne ダンカン・ブラウン。
ストーンズのマネージャー、Andrew Loog Oldham に才能を見出されてデビューしたという実力も折り紙つきのアーティストです。
あまり日の目を見なかったアーティストでしたが、後世の評価はすこぶる高く、ぜひ聞いてほしい名盤『Give Me Take You』(1968)、『Duncan Browne』(1972)があります。
アルバムではフィンガーピッキングを中心としたフォークな世界観が特筆されていますが、この曲はピアノのみで曲が展開していきます。
のどやかな英国の田園風景、木漏れ日とそよ風で揺れるカーテン…、まるで近所のどこからかこのピアノが聞こえてくるような、リアルな穏やかさが伝わります。
ここまで絵画的な音楽というのはめずらしく、ピアノの音色とともにとても印象に残っている曲です。クラシックっぽい音楽とも言えるかな。
残念ながら1993年にお亡くなりになっていますが、彼の一声で作り出すノスタルジーな世界観はまさに唯一無二の素晴らしさです。
Wouter Hamel & Penny Police-Traveling Alone
意外に見ないプロシンガー同士のピアノ連弾弾き語り。
オランダ出身のジャズ/ポップシンガーの Wouter Hamel ウーター・ヘメルと、デンマーク出身のフォーク/ポップシンガー Penny Police ペニー・ポリスのデュエットです。
アルバム『Pompadour』には正規バージョンが収録されていますが、筆者はこの探り合い、を経てのお近づきが大好物でして…
互いの呼吸を気にして、テンポを探って、タッチの出方を予想して、という一連の緊張感と重なったときの解け方がまじたまらんのですわ…
とくにこの二人は、普段自分たちのフィールドではかなり独創性に富んだ音楽を伸び伸びやってるイメージだったので、余計にこの緊張と緩和にニヨニヨしました(笑)
Donny Hathaway- A Song For You
Leon Russell レオン・ラッセル の曲を Donny Hathaway ダニー・ハサウェイ がカバー。
ほかにも Carpenters、Aletha Franklin、Ray Charles、Whitney Houston、Christina Aguilera、Amy Winehouse など実に錚々たるメンバーがカバーしています。
言葉は悪いですが、腕に覚えありと自信のあるアーティストでしか歌わない、暗黙の了解がある曲の一つだと思っています。
なかでも代表的なこのバージョンは、原曲のピアノの素晴らしさをそのままに、曲に寄り添う天才だった Donny のボーカルの魅力にあふれています。
一瞬青臭くも聞こえるこの声が、どれだけ曲を素直に、マイルドに、生き生きと輝かせていることか。
これまでは「人の声に寄り添うピアノサウンド」をご紹介してきましたが、この曲ではピアノと歌声が互いに寄り添っているようにも聞こえます。
イントロや中盤でのピアノによる場面転換もとても自然で重苦しくならず、そのままボーカルを受け入れていて、両者の相思相愛ぶりったらないのです。
じっくり抽出した珈琲といっしょに、そしてそれ以上にじっくり味わいたくなる歴史的名曲ですね。
あとがき ピアノの音色と生き方の美しさ
ピアノを習っていた子ども時代、なぜか筆者は今回のような曲にばかり惹かれ、いっこうに早弾きというものに挑戦しようとしませんでした。
コンクールやお披露目会での花形はテンポの早い曲になるので(とくにある年代までは)講師にも
「かっこいい曲を弾きたいと思わないの?」
と、あきれ半分に言われたことも。
私としては自分の思う「かっこいい音」がその手の曲になかっただけなんですが…(この考え方がもう弾き手として失格 笑)
かといって情感たっぷりのドラマティックな曲が好きかというとそうではなく、淡々としたテンポのなか、ふとした瞬間心の琴線にふれる音楽を好んでいました。
理想は久石譲さんの『アシタカとサン』や『丘の町』ぐらいにシンプルで情感のあるスコア。
今考えると、この好みは私の考える「生き方の美しさ」にとても似ていることに気づきます。
社会を構成するほとんどの人に、毎日ドラマティックなことはそう起こりません。毎日を淡々と、時には繰り返しと思える日々を過ごす私たち。
けれどそのなかには必ず悲喜こもごもの感情があり、やるせなさがあり、一言では表せない愛しくて複雑なストーリーがある。
そんな誰に認識されなくとも日々を紡ぐことへの一途さ、たくましさを知っている生き方に、私は人としてとても自然な美しさを感じるのです。
【人の声に寄り添うピアノ】が好きな理由もこれなのかもしれません。
速弾きを習得したからこそ弾けるスローバラードもあるんだろうな、という思いはあります。
ピアノの美しい音色とは人によってまったく違います。
心や体調のコンディション、演奏者との波長、長い音楽のなかでたまたま耳にしたフレーズ…
たくさんのタイミングと巡り合わせのなか、ふと耳に残ったピアノの音色があったらぜひそれを大切にしてもらえたらなぁ、なんて思います。
ぜひ皆さんもお気に入りの旋律を探してみてください。
Thank You For Reading.
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