今回STEPS(ステップス)について書くにあたり、これだけ言わせてください…
私は80年代~90年代のポップスをほとんどスルーしてきた人間です。
その世代ドンピシャでもないし、周囲の人間にもこのジャンルの音楽を聞いていた人はいなかった。おまけに彼らが大ヒットを記録して日本でも一躍ブームになった某国民的番組すら見ていませんでした。(逆に何して生きてたのか…)
そんな私が90年代ビート満載の彼らについて書こうと思ったのは、懐古的だからとか逆に新しいとかそういう点についてではなく、今の時代における「ポップス」というものの存在意義を深く考えさせられたからです。
人はなぜポップスと共に「生活する」んだろうか。
ときに嫌悪し(ロックファンあるある)、ときに讃え、ときに再評価しながら、なぜいつの時代もヒットチャートからポップスが消えることはないのか。
完全なる独断と偏見ではありますが、ポップスの重要性について STEPS の音楽で掘り下げられればいいなと思います。
STEPS(ステップス)について 再結成【後】を経て迎える2020年
今回のきっかけになった、私に刺さったステップスの曲がこちら。
皆さんはこれを聞いてどう思うでしょうか。
過去の焼き増し?
オジサン&オバサンがイタい?(それでも相当若く見えると思いますが…)
ダンスどうにかしろ?
親が懐かしむためのだけの曲?
正直に言うと今年でなければ私もこれらの感想に「Yes」と答えてしまったかもしれません。
けれど私は感動してしまった。
とくにサビの、あのどうしようもなく誰にも愛されることが分かっているキラーフレーズに、胸を熱くしてしまったのです。
メンバーと略歴
STEPS(ステップス)は1997年にイギリスで結成された男女5人のダンスグループ。
ABBA(アバ)の後継としてそのサウンドを復活させ更にアップデートしていくという意図から始まったグループなので、一聴して「アバっぽい」という印象を受けるのはある意味最大の賛辞の一つかもしれません。
曲はほとんどがカバー曲でオリジナルが数少ないのも特徴。
デビュー曲「5.6.7.8」以降も数々のヒットを出すも2001年に電撃解散。後の2007年に再結成をしています。
メンバーは
- クレア・リチャーズ…メインボーカルの女性でセンターを担うことが多い。グループの顔ともいえるメンバー。
- リー・ラッチフォード・エヴァンス…黒髪の男性、まったく毛色の違うバンドも兼任
- フェイ・トーザー…リードボーカル、長身の女性でスタイル抜群
- イアン・ワトキンス…金髪の男性、キレのあるダンスが特徴
- リサ・スコット・リー…リードボーカル、黒髪の女性、情熱的な声をもつ
2001年の解散はメンバー間のごたつきというよりプロデュース側の事情だという見方が一般的なようです。(今よりもグループのショービジネスがドロドロの時代だっただろうしお察しします…)
メンバーも年を重ねたからか再結成後のメンバーシップはすこぶる良好な印象です。
大人の仲の良さが出てる素敵なBTSだと思う。こういう年を重ねた男女の関係性は憧れます。
2020年に刺さった無防備に聞ける音楽
なぜ彼らの曲が私の心に刺さったのか。
それは、私がもうずっと長い間音楽に意味ばかりを探していたからでした。
この曲は何かを見せてくれる
この歌詞は心を動かしてくれる
音楽には意味がある
そうやって「音楽は音楽以上でも以下でもない」ということを理解していたはずなのに、ここ数年の時代(世界情勢)の動きにすっかり飲まれ、必要以上に音楽を神聖化してしまっていたのです。
ヒットチャートのポップスも「オシャレな曲」が多く、その言葉を鎧にして、直球でストレートなポップスを自ら探しにいかなくなってしまった。
そうこうしているうちに迎えた2020年。無意識に気持ちがふさぎこみがちな中で、心のなかのある部分は高速で枯渇していきました。
そして「
この曲を聞いて最初に思ったのは、聞き手に何の構えも与えないということ。
心を裸にして、頭をからっぽにして、ただただ音楽を聞く。浴びる。でもそれは、色々考えて音楽を聞く以上に、音楽そのものと向かい合っていることになります。
どんな時代であろうと、音楽には何かの保証も意味もいらない。
ただ一瞬でも浮世を忘れさせてほしい、元気にしてほしい、笑顔にしてほしい。
私にとってそんな超絶エゴイストでシンプルな気持ちを解放してくれたのが「
※ここまで熱く語っておいて何ですが、単純に曲がいいというのも一つの理由です(笑)
かっこいいダンスとは
曲とともに私にとって大きな衝撃だったのが、この曲の振付けです。
だっていい年をした大人5人が、あろうことか twice のリリックでピースサインをかますんです。
様々なダンスに触れてきた現代人からしたら、もはやダンスと言えるのかどうかあやしいレベル。(昨今BTSなんか見ちゃうと余計に)
それを堂々とやるんです。
なんて愛しいのか。そして、なんてかっこいいのか。
そしてこの音楽に感動してしまった以上、リスナー側にもこれ以上にこの曲にフィットする振りは思い浮かばないのです。
どんなにユルかろうが、余白ありすぎだろうが、彼ら5人が踊るこのダンスがこの曲における唯一の「正解」。
たぶん、これがダンスの在り方なのでしょう。
スキルだけではなく、真似できる大衆性だけでもなく、曲と演者側のプライドが重なって初めてそのダンスはかっこよく見えるし、魅せるダンスになる。
これまで見てきたダンス音楽のなかでも、とくにパフォーマーの生き様を感じる素晴らしい経験をさせてもらいました。
そのほか 近年の代表曲
概ね再結成後のパフォーマンスには一定の評価を得ているステップス。
とくにニューアルバム『 What The Future Holds 』では、新たなブームを狙ったパワーサウンドが光ります。
親世代の音楽で育った子どもたちがメインシーンを動かす世代になってきており、彼らから予想以上の評価も得ているのが凄いところです。
What The Future Holds
ここまでくると、振りに何のアドリブを入れない頑なさに酔ってしまいそう。
衰え知らずのクレアのボーカルも伸び伸びとしていて爽快感に溢れています。今後このベクトルで攻めてきそうな予感。
再結成前は口パク批判があったようですが、少し前にみたライブ映像では普通に踊りながら歌い、しかもハモっていたので、本当に当時のショービジネス界の謎はたくさんあるな…と思います。
クレアやリサなんか普通にうまいよね…
Scared Of The Dark
『Tears On The Dancefloor』収録。
サビのダンスをどう思うかは、あなた次第。
どちらにしても言えることは、やっぱりプロ意識が高いグループだということ。
イワンのキレッキレのダンスは見てて癖になるし、黒で目立たないけど最高に奇抜な衣装を着こなしている(そしてこの振りを踊る…)女性陣にも拍手です。
Dancing With A Broken Heart
同じく『Tears On The Dancefloor』収録。オリジナルはデルタ・グッドレム。
リーのソロパートを加工編集するという大技にでた一曲。
なぜリーだけ色々なことが起こるのか、当時も今もよく分からない謎の一つです。もっともっとパート増えていいんだけどなぁ…。
とくにダンスはもう少し自由に踊りたがっているように見えるので、そうさせても光る存在だと思うのですが。
全体的に言えるのが、美術・撮影スタッフがとても優秀だということ。どの曲もこちらが求めるポーズや目線がしっかりこちらに届いている感じがしていいです。
「基本に忠実」とはよく言いますが、この年代のアーティストでそれをこなせるのって余程のメンバーシップと信頼感がないと難しい気がするし。しかもそれをしっかりやってしまうと、どうしても古さを感じてしまうものですが、美術や編集技術、メイクやコレオの巧妙さで上手くまとめている感じ。
一長一短ではありますが、現代のPVと違って「最初からゴールが設定されている」撮り方で新鮮かもしれません。
ポップスは孫のような音楽
今回彼らの音楽をじっくり聞いてみて、何だかポップスは「孫」みたいな存在だなぁ…なんて思ったりしました。(筆者に孫はいません)
我が子(ロックやジャズやその他の音楽)であればつらい思いもさせようが、孫はキラキラ笑ってはしゃいでいてほしい。つらく苦しい世界を知らないまま、純粋に育ってほしい…。
いや、正しい感覚なのかわかりませんが距離的にもそんな感じだなと。
多くの場合、人は頭を使わずに心で音楽を楽しみたい。
つらく厳しい現実のなか、音楽にまでその世界を背負わせたくない(ロックやソウルは背負ってくれがち)という気持ちが、自然と多くの人がポップスを無意識に選び、親しみやすい音楽の代表に育てたのだと思います。
一番近くにいるとは限らないけれど、常にある存在。
純粋に音を楽しみ、心で感じたい、キラキラした音楽。
私にとってポップス音楽とはそういう存在だったのでした。
そんなことを改めて教えてくれた STEPS ステップス。
これからも定期的に聞いて、シンプルに音楽を、アーティスト自身を楽しんでいきたいと思います。
よかったら皆さんも、たまには頭をからっぽにして、ただただ音楽を「浴びて」みてはいかがでしょうか。
やっぱり普通にかわいいし、かっこいいし、歌える…!けっこう若いお客さんもいます。
余談:ポップスうんぬん言ってたわりに、私ウェストライフ好きでした…【完】