前回、クリスティーナ・アギレラが歌う『ムーラン』のテーマ曲をご紹介しました。
言わずとしれた大スターとして歴史に残るヒット曲をもつアギレラ。
けれど彼女の音楽はポップカルチャーのみにとどまらず、実に幅広いジャンルを網羅しています。
さらにすごいのは、ポップシンガーとしてのバランス感覚。
どんなジャンルの曲でもポップスのあるべき形を崩さないまま、他ジャンルの音楽性を最大限に引き上げることを得意としています。
今回はそんな天性のシンガー、クリスティーナ・アギレラのかくれた名曲をご紹介しながら、彼女の音楽観についておブログしていきたいと思います。
ヒップホップ
ポップシンガーのなかでアギレラほどヒップホップと相性のいい歌手は稀なのではないでしょうか。
リリックの力強さ(あるいは繊細さ)、絶妙な音の伸縮、野性的リズム感、エッジのきいたフック……例をあげたらキリがないほど、アギレラはヒップホップに必要なスキルを備えている歌手なのです。
なかでも「
PVで損してるけどな…。曲を聞いてください、曲を……
2018年発売『Liberation』収録。アルバムのリードシングルで、プロデューサーは何かと話題のカニエ・ウェスト。(そういう人を才能にだけ目をあててサラっと起用しちゃう、アギレラの考え方も好き)
長~~~い歳月をかけ満を持したカムバックだったため、多くのファン同様初めて聞いたときは正直わたしも肩すかしでした。
ですが、近年アギレラの音楽はスルメが基本…!
2回目、3回目…と聞いていくうちに「何これ新しい…」となり、4回目以降は「え、オシャレすぎる…!」と、この曲の虜に。
いや~すごい。
間違いなくヒップホップなんだけど、ポップスの感触も確実にあって…。どちらかを殺すことなく、どちらの真似ごとでもなく、独自の音楽性で両者の臨界点をうまく引き上げてる。
ところどころリズムや言い回しがダサいのも○。その絶妙な「痛さ」加減がこちらの琴線にうまいこと引っかかり、いつの間にかノってしまいます。
改めて彼女のポップスシンガーとしての才能を見せつけられた一曲です。
未だにお気に入り~。
2010年発売『BIONIC』収録。フューチャリングはニッキー・ミナージュを迎えて。
ニューアーティストへのアンテナも定評のあるアギレラ。かなり早い段階でニッキーにも注目していました。
このアルバムはエレクトロサウンド味が強く、ヒップホップ要素もかなり実験的に組み込まれています。今聞いても喧嘩売ってるようなサウンドで(褒めてます)、当時の賛否両論も妙に納得…。
セールス的には芳しくなく、はじめてアギレラが失速した印象を与えてしまったけれど、かなり革新的なアルバムなのでリベラルな音楽好きにはいいかも。
一方で、この曲は程よいキャッチーさを失わないまま完璧にヒップホップしてるので、ファンのなかでは根強い人気もあります。(シングル化されなかったのが未だに謎…)
このうねりの中を縦横無尽に歌いまくるアギレラ、シンプルに強い。
飛ぶ鳥を落とす勢いとはまさに。
パフ・ダディ―としても知られたショーン・コムズとの共演。アギレラはヒップホップと相性がいい!と改めて確信した曲です。
ヒップホップ界の大スターとコラボしてもまったく遜色ないパワフルなボーカル。
ヒップホップ的ビートを邪魔せず、それどころか何十にも色をつけていくコーラスパート。
そして、これほど大きなバックサウンドの波にさらされながらも、まったく後退しないポップス流のボーカル。
なのになぜ、こんなにもヒップホップなのか!?彼女には音楽の全体像ってどう見えてるんだろ…なんて想像してしまいます。
余談。このPVのアギレラは史上最強に美しいと思う……
毛色はまったく違いますが、この曲も好き。
前者とちがいアギレラは完全にポップスシンガーとしてコラボしており、そのコントラストが美しいパフォーマンスです。
10年前にスカイラー・グレイとエミネムみたいなことしてたんかいっ!
クラシカル・スタイル
アルバム『Back To Basics』からアギレラのライフワークになったのが、クラシカルミュージックへのアプローチ。とくにブルースやディープなR&B、ジャズなどは彼女の得意とするところです。
このジャンルはボーカルスキルがなければパフォーマンスが難しい分野ですが、アギレラは幼いころからオールドミュージックで育っており、無問題。
むしろボーカルスキルを培ってきた彼女の故郷のようなものでもあり、思いのほか自然なパフォーマンスを見られます。
自身の主演映画『
それは生前のエタ本人から「まるで1950年代のアーティストを見ているよう」と、そのボーカルのタフさ・ディープさを評価されるほど。
この曲でも声の伸縮、感情の解放、バックサウンドとの一体感など、どこを切り取ってもオールドスタイルへのリスペクトにあふれています。
しばしば「がなり」と捉えられる発声も、このジャンルでは小気味いいスパイスとしてうまく馴染んでいるのではないでしょうか。
『Back To Basics』にも収録されていそうな1曲。アニメ映画『ホーンテッドマンション』に提供。
シャウトやマンブリングなどブルース的ボーカルにもこだりつつ、ステレオタイプなコメディっぽさを表現。サーカスのような不思議な魅力のある曲に仕上がっています。
ただ、ここでもポップスシンガーの要素が薄まったようには聞こえません。ここまで歌えて完璧にブルースしているのに、一体なぜでしょうか。
おそらくそれは、アギレラの声質、そしてリズムのとり方にあります(…と思っています。独断&偏見)
アギレラの地声は基本的になかなか細いです。(揶揄しているわけではなく、日本人の思う西欧女性の「黄色い声」というものに合致していると思う)
歌の世界観のためにより野太く、よりディープに、よりダイナミックに発声しているので、普段声が細いとは思えませんが、何曲かあるフォークバラードやカントリーでは、かなり自然な発声を聞くことができます。
これはウィスパーボイスなので比較にはならないかもしれませんが、繊細な地声を想像しやすい曲です。
もとから親しみやすい=ポップス的な声をもつからこそ、ブルースやヒップホップなど大きく振り切った曲でも、一瞬垣間見える地の声で、リスナーはポップス色を感じるのではないでしょうか。
リズムのとり方についてですが、基本的にアギレラは(というかポップスシンガーは)リズムを「縦」にとっていると思います。
ブルースやジャズ、ヒップホップはリズムがとにかくうねるので、規則的なリズムという概念も薄いし、そうなるとリズムを「縦」に割るというのも少ないかな、と。
それをアギレラは自然にポップス的感覚で歌っており、それが体に染みこんでいるのではないでしょうか。(知ったか…)
それが意図的か無意識かは別として、これはポップスシンガーがオールドソングを歌うというパフォーマンスには吉と出ていると思うんです。
テーマソング・コンセプトソング
物語ありきのテーマソングやその題材に沿ったストーリーを表現するのも得意なアギレラ。
これはシンプルに表現力の問題なのですが、聞けば聞くほど、曲の世界観を構築する手腕の素晴らしさに気づかされます。
ブロードウェイの舞台『ファインディング・ネバーランド』のカバーアルバムより。
このようなテーマ曲を歌う場合、アギレラは最大限その曲に寄り添います。
ミュージカルであれば息遣いやスポットライトを意識した歌い方にシフトしますし、技巧的に歌いまくるというパフォーマンスはおそらく意図的に封印しているのではないでしょうか。
ステイホーム期間中に自宅からディズニー企画へ参加。ライオン・キングのテーマソングをカバー。
ここでアギレラは、この曲お馴染みの転調を一切していません。けれど、じわじわと確実に…熱いパッションをリスナーに伝える姿に、改めて一流のパフォーマーということを思い知らされました。
結果、オリジナルのように耳心地がよく、彼女がどんな形でこの曲に色をつけたかったのかも伝わり、作品へのリスペクトが感じられる仕上がりになりました。
それにしても隣でうたた寝するワンちゃん、最高に羨ましい…
コラボ曲
アギレラはたくさんのミュージシャンとのコラボ曲を発表しています。
マルーン5やピットブル、ア・グレート・ビッグワールドあたりが有名で大ヒットしましたが、ここではあまり知られていない良曲をご紹介します。
まったく…ナイル・ロジャースとやることになるとはな……(ため息)
ファンさえも少し面喰らった規格外の曲。DJプレミアといい、カニエといい、アギレラの音楽はディープなサウンドにマッチしますね。
ここまでディスコサウンドを歌えるとは思っていなかったので、改めてアギレラのミュージシャンとしての器の大きさを再確認できたお気に入りの曲です。
シンプルにオシャレだし、けばい化粧が最高にイカしてる!!(基本けばい化粧の方が好き…)
活動休止する前のレディ・ガがと。人気オーディションショー『The Voice』でも圧巻のコラボステージでした。
2010年代、ガガが台頭していたころ何故か比較されがちだった二人が、こうして同じステージに立つというのはちょっと感慨深いものがあったりして。
100%ガガ成分の曲にサラっと入れるのはさすが。二人とも音楽に関してとても賢い女性なので、曲の作りこみやパーソナルなバランス感覚など、とてもプロフェッショナルな面がみえる一曲だと思います。
『The Voice』の初期コーチメンバーだったシーロー・グリーンとゴージャスなコラボ。
シーロ―はどうしてもヒップホップのイメージが強いんだけど、こうして聞くとめちゃくちゃいい声。両者の声がいい具合にブレンドされて、めちゃくちゃ良い香りのコーヒーみたいです。
アギレラはジャズも好きでよく歌っていますが、これは曲も当たりでかなりお気に入り。PVもオシャレ!
数あるコラボのなかでも一番胸アツな曲。
最新アルバム『Liberation』収録。フューチャリングにはアギレラをリスペクトして育ったデミ・ロバートが参加しています。
アギレラの代表作にして代名詞的アルバム『Stripped』のように、ウーマン(もしくはマイノリティー)アンセムを全面に打ち出した曲です。
It's just the way it is (世界とは)こういうもの
Maybe it's never gonna change たぶん これからも決して変わらない
と、年を重ねたゆえの諦念もまとわせつつ
I wasn't made to fall in line 決して同調したりしない
と、最後まで信念を曲げない姿はまさにアギレラです。
このメッセージを『Stripped』で育ったデミが横で歌うという、恐ろしいほどの説得力。真実、世界は劇的に(良い方向には)変わらない…。
それでも、生きることをあきらめかけている少年少女たちがこの曲を聞いて少しでも救われたらいいな…と思ってしまいます。
まとめ
いかがでしたか?
歌がうまいということが先行して、なかなかアギレラの音楽性がフューチャーされることは少ないかもしれませんが、彼女の音楽にはいくつもの魅力がつまっています。
今はビートサウンドが主流ですが、たまにはアギレラのようにどっぷりとその世界を歌う音楽を聞いてみるのもいいかもしれませんね。