夏も終わり、気温がだんだんと落ち着いてきた今日この頃。(それでもまだ蒸し暑いけど…)
ようやくお出かけ日和になったおかげで、基本的にずっと患っている「旅に出たい病」が、わたしのなかで再びふつふつと頭をもたげてきております。
そんなときによく効くのは、コスモポリタン音楽を大音量で聞きまくり、いっそ旅に出た気分にさせてしまうこと。
というわけで、今回はワールドミュージックで今一番おすすめの女性歌手 MOR KARBASI(モル・カルバシ)を聞きながらおブログ。
同じ病にかかりながら治療のめどがたっていない方はぜひ。
セファルディー歌手 MOR KARBASI(モル・カルバシ)
MOR KARBASI - Ojos De Novia (Eyes of a Bride) (HD) 2016
MOR KARBASI(モル・カルバシ)は、1986年にイスラエル/パレスチナのエルサレムに生まれました。父がペルシャ系ユダヤ人、母はモロッコ系という生い立ちで、主にセファルディー音楽を歌っています。
セファルディーとはパレスチナ以外の地域に住むユダヤ人のうち、15世紀あたりにスペイン・イタリアなどの南欧諸国、またはトルコや北アフリカなどに定住した人たちのこと。セファルディムという言葉があり、セファルディーはその単一系です。
同じくユダヤ教のアシュケナジムとともに、今日のユダヤ教徒社会の大きな勢力とされています。
歌手や俳優の著名人には、ニール・セダカやヴァル・キルマーなどがいます。
とくにヴァル・キルマーは、ドリームワークスの映画『プリンス・オブ・エジプト』にて、主演モーゼを演じていました。
そんな彼女は2000年代から注目を浴び始め、2008年にアルバム『The Beauty and the Sea』でデビュー。
その後、次々とアルバムを発表し今ではワールドミュージック界で注目されるアーティストとなっています。
デビュー当初はロンドン拠点だったようですが、現在はスペインのセビーリヤに移住。今日まで精力的にセファルディー音楽の創作に力を入れています。
こちらが私がはじめてきいた彼女の声。
Koby Israelite feat. Mor Karbasi-Le Mi Evke למי אבכה(Asphalt Tango.Records,2013)
もともとコビー・イスラエリテの音楽を漁っていたところでした。
何この美声!
何このエキゾチック!
何このコスモポリタン!
おまけにめっちゃ美人じゃ~~~!!
と、一人大興奮。
個人的に中東やロマ・バルカン系の音楽は声と表現が表裏一体というか、その境目が曖昧でおそろしく中毒性の高いジャンルだと思うのですが、まさしくそれ。声フェチ女、一瞬で沼へドボンです。
コビーが奏でるアコーディオンでバルカンの乾いた風が吹いたかと思えば、モルの湿り気のある、且つ凛とした響きの声が楽曲を包んでいく。
音楽的コントラストなのかと思えば、もう2節目には完璧な世界観が出来上がっていて、再びアコーディオンが出てくるころには、その濃ゆいパワーに翻弄されっぱなしの状態に。
そしてラストのモルの歌唱はまさに天上の音楽。
声なのか、祈りなのか。それとも叫びか。
その声に圧倒されながらも、不思議と心地のよい高揚感を味わえます。このあたりはイスラリテの手腕でもあるでしょうか。
コビー・イスラエリテの音楽についてはこちらでも書いています。
多彩なアレンジで魅せる伝統とその美
モルはセファルディー音楽を中心にしているので、イベリア半島のフラメンコサウンドを主軸としていますが、その音楽スタイルは実に多彩です。
母方の血筋であるモロッコ系ユダヤ人における典礼詩を現代的にアレンジ。
軽やかに聞ける親しみやすさがあり、モルの声もバックサウンドに寄り添うよう、いつも以上に温かみがあるのが特徴です。
Mor Karbasi 'Ladrona de Granadas' (official video from 'La Tsadika' 2013)
ふんわりとしたサウンドに力強くも美しいモルの歌声が一層際立ちます。ときおり聞こえる裏声やおさえた声はため息ものです。
Mor Karbasi - Puncha Puncha (trad)
伝統的なラディーノ(スペイン系ユダヤ人)音楽をライブパフォーマンス。
当然といえば当然なんだけど、ギタリストの呼吸の合わせ方が鳥肌ものです。
中世スペイン語で歌われるトラッドソング。
コンテンポラリーな旋律を奏でるピアノアレンジもさることながら、しっかりとトラッド要素を刻むモルの歌唱が楽曲をドラマチックに盛り上げます。
聞きやすくも芸術性の高い、個人的に好きな1曲です。
モルの音楽は多彩でありながら、どこか王道的(褒め言葉)でしっかりと背景をとらえているところに安心感があります。
音楽におけるジャンルというやっかいな存在
脱線いたしますが、ここで主観的な小話を。
かねてよりわたしは、音楽ジャンルっていうものがしっくりこないことがありまして…。
世界の音楽を聞いていくと、音楽ってまさに地域的なグラデーションで出来ていてジャンルっていう線引きが困難なんです。
さらに言えば、一人のアーティストだけでもそのアーティスト人生のなかでいろいろな音楽に挑戦するわけで、この歌手がこの音楽ジャンルの代表っていうわけにもいかなくなる。
日本は島国なので(しかも文化的に300年間交流もなかったし)比較的その境目がやりやすかったから、ジャンル分けっていう工程が根付いていったのかもしれません。
よくCD売り場で「ロック」「ポップス」「ジャズ」とかで分けられてあるけど、よくよく見ると…そうかな?っていうアルバムもあるし、確かにその要素もあるけど違うエッセンスの濃度が高いな~って思うアルバムもあるんです。
だから、音楽はもう個人が生んで奏でるものとして、名前分けでいいんじゃないかな?とか思ってしまったり。
○○さんの今回のアルバムはジャズ色強め、とかその程度の表記だと芸術面でいえば正しいあり方なのかな~とか(芸術に正しいも正しくないもありませんが)。
ただ「こういう音楽が聞きたい!」っていうときにジャンル分けは便利なので、難しいところでもありますが…
なーんて、グダグダ考えるのも音楽オタクにはただの楽しい時間なわけで、難しいけれど愛しいテーマだったします。
そんな理由もあり、わたしのブログではまずもって音楽のジャンルレスをかかげ、カテゴリーにおいてはジャンル表記をしておりません。
その代わり、アーティストの出身地やそのルーツをリスペクトするという意味で地域名でカテゴライズさせて頂いています。
日本人のわたしが思う以上に、海外の、とくに大陸の方たちにとっては自分のルーツというのは、ものすごく崇高で神秘的なものだと思うので。
それでも日本だけの視点からすると「バルカン」とか「中東」、「東南アジア」とかザックリしすぎ問題とかあるので、これはこれで悩みは尽きないんですが…。
とにかく旅にでたい病にかかったら、その土地の音楽を
Mor Karbasi - Shecharhoret (English, Türkçe Lyrics)
冒頭のとにかく旅にでたい病ですが、かかったら完治は難しいかもしれません。それでも気分を紛らわせるには、その土地の音楽が最適!
ただ(人によりますが)あまりにディープな音楽を聞いてしまうと、気分の発散にはならないので、適度に現代的なアプローチをとりこんだ音楽がおすすめです。
モル・カルバシはびしっとトラディショナルでありながら、そのサウンドは軽やかで聞きやすいものがたくさん。
一瞬で旅行気分を味わえるどころか、その地域性における複雑さ、それゆえの文化の美しさなど、もしかしたら実際の旅より深く考えさせられる要素があるかも。
中東音楽ってミステリアスすぎるから…と敬遠せずにぜひ聞いてみてくださいね!