徐佳瑩(ララ・スー)の音楽は、とにかく「丁寧」。
声の美しさ、繊細な感性、意思を感じる印象的な瞳など、魅力を探ればきりがありませんが、彼女の楽曲を聴くとやはり音楽への丁寧な向き合い方に心を奪われてしまうのです。
雨続きの毎日。
どうしても停滞感を感じ昼間の疲れしか残っていないような夜更けに、徐佳瑩(ララ・スー)の音楽を聴くと、自分にも他者にもゆっくりと向き合うことの美しさが感じられるような気がします。
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この曲はアジアのジャズポップなテイストの曲で大好きな一曲。ウィスパーボイスと切なく訴える声の使い分けがとても美しいです。後半綺麗に乱れていくピアノの旋律もこれ以上ないほどの豪華さ。PVもモダンで分かりやすく静かに心へ訴えかける素敵な作品です。
Biography
徐佳瑩 スー・ジャーイン は台湾台中市出身のシンガーソングライター。
普段はララ・スーと表記され、愛称はララ(テレビ番組でも「ララ」と呼ばれているので覚えやすいし、とにかく印象に残ります。)
台湾のオーディション番組「超級星光大道」の第3回チャンピオンに選ばれ、2009年にメジャーデビューを果たします。
失落沙洲は大会で歌われたララ・スー最初の代表曲です。
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清涼感という言葉だけでは説明できない美しさ、歯がゆさ、温かさを感じることのできる名曲。大会後も、多くのステージやパフォーマンス番組で歌われ続けています。
楽曲のほとんどを自ら手掛け他アーティストにも曲提供するなど、ソングライターとしての実力も折り紙つき。
かねてより多くの授賞式にもノミネートされてきたララでしたがついに2018年、
台湾のグラミー賞とも言われる国内アワード金曲奨(ゴールデン・メロディー・アワード)で中国語女性歌手賞を受賞。
またアルバム『
ララはいわゆる音楽対決番組などにもよく出演しており、2020年には中国の大型エンターティナーショー【歌手 当打之年】に参加。
日本からは MISIA が参戦して話題を集めましたが、ララの素朴でまっすぐな歌唱もとても印象に残りました。
こちらの動画では0:10~あたりでMISIAについて中国で言い替えるとどんなアーティストなのかと聞かれた際、
「王菲 フェイ・ウォン(中国で最も偉大な女性歌手の一人)」と一言最大限の敬意を表してくれていたり、
番組内でMISIA が歌った「明日へ」を聴いた際には、歌手仲間に「音楽が言葉を越えた瞬間だった」としみじみ伝えていた姿にも(下の動画で36:10あたり)、逆に彼女のソングライターとしての強い姿勢が垣間見えました。
台湾にはもちろんとても素晴らしいアーティストがたくさんいますが、その中でもララは“シンガーソングライター”として強い覚悟と表現を確立しているアーティストの一人だと思います。
Music
ララ・スーの曲でとくにおすすめの曲をあげていきます。
到此為止 From Now On
歌い出しの繊細さが癖になる一曲。
あまり日本では馴染みのない導入メロディーですが(プレコーラスとして多く聴く気がする)、感じるのは違和感ではなくこの曲への避けられない没入感。
青春期における切なさと暴力的な感受性をこれでもかと表現していて、単に「美しい」曲で終わらせていないのがすごいです。ララの音楽はバックサウンドにも大きな価値があり、それは私が彼女の音楽を「丁寧」と表現する一つの理由でもあります。
現在不跳舞要幹嘛 Just Dance
ベーシックなダンサンブルナンバーですが、間奏パートやバックトラックにめちゃくちゃオシャレな一節があるのが癖になります。
真顔でダンスするララのパフォーマンスにも、普段の彼女の陽気さが出ていてかわいいです。
言不由衷 The Prayer
日本の長野県で撮影されたPV。
北アルプスの雄大な景色とララの透明感ある歌声が美しくマッチしています。台湾には日本でPVの撮影をするアーティストも多くいます。
最近ではあっこゴリラや The Yellow Monkey など日本のアーティストも台湾でPVを撮影することが多くなってきています。
あとがき
K-popの躍進や音楽大国のフィリピンに代表されるように、アジアの音楽は近年めきめきと世界でその存在感を高めています。
メインシーンの音楽には流行が不可欠ですのでヒップホップやダンスシーンの取り入れも確かに重要だと感じていますし、それら含めての「音楽アーティスト」なのでそれについて何か意見したいわけでもありません(というかK-popもかなり好きですしライブにもよく行ってました)。
ただ、私は専らノスタルジータイプの人間だからかその国の感性で見える世界というものにも大きな魅力を感じています。
例えば同じ「自然=nature」について歌う曲でも、日本のアーティストが表現する自然と、台湾のアーティストが表現する自然、中国や東南アジアの国が表現し想像する自然は、おそらくそれぞれの音楽で異なる表情をしていると思います。
違った価値観や知らなかった視点で表現される音楽というのは、メインシーンよりもララ・スーのようなアーティストの音楽でこそキャッチできるような気がするのです。
それこそ彼女がMISIAの音楽へ伝えたように「言葉の壁を越えて」その景色が他者に見えるようになる。
これってめちゃくちゃ奇跡的でものすごく尊いことだと思いませんか。
日本ではどうしてもアジアの音楽が大型メディアで特集されることは少ないのですが(それでも最近は熱くなってきてると思う)、
これからも彼女の言葉を信じて、草の根のような地道なやり方ではありますが、素晴らしい音楽を知っていきたい、ご紹介していきたい、と思っています。
▼そのほかのアジアンアーティストについてはこちら
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