ステイホーム期間以降、目にみえてYouTubeに触れる機会が増えているのを実感している今日この頃。
ある実況チャンネルを拝見して驚きました。
ゲームって…
いやゲーム音楽ってこんなことになってるの!?
ゲーマーの方からしたら「はぁ?」という今更感なのは百も承知なのですが、とにかくそのゲーム音楽が素晴らしかった…
そのゲームとは、オープンシナリオゲームの最高峰と呼び声高い
デトロイト ビカムヒューマン
ゲーム内容も非常に素晴らしいのですが、音楽好きの私にとって
それに寄り添う音楽が…凄すぎました。
今回は非ゲーマーであるただの音楽好きも一瞬ではまった「デトロイトビカムヒューマン」の音楽について、簡単ではありますがおブログしていきたいと思います。
※ゲームに関しては米粒以下の知識なので、色々とお許しを…
ゲームの世界観
このゲームは各分岐点のプレイヤーの選択がエンディングに大きく影響するため、通常以上にネタバレがご法度なゲームとなります。(エンディングも数多く用意されているそうです)
ですので、ここではゲームの世界観と登場人物にだけ、さらっとふれておくことにします。
この公式もけっこうネタバレしてるんじゃないかと思ってしまうほどですが…
世界ではアンドロイドが人間の社会に奉仕する存在として使役され、どんどん進化しています。(アンドロイドにはまるで黒人の公民権運動を想起させるような表現も)
アンドロイドのおかげで暮らしぶりが効率化され豊かになる一方、彼らに仕事を奪われた人間のなかには反アンドロイド思想をもつ者もいます。
そんな中、既存のプログラム以外の行動をおこし、まるで感情が宿ったかのように振舞うアンドロイドが「変異体」として出現。
プレイヤーはそんなアンドロイドとしてこの世界を生き、様々な選択肢のなかで人間とアンドロイドとの関わりにふれていくことになります。
主人公は三体のアンドロイド。
プレイヤーはこの三人のシナリオを一話ごと順番に、全員プレイしていくことになります。
そしてこの「主役が三人いる(=全員を同時進行的にプレイしなければならない)」ということが、今回音楽的観点からわたしが感銘を受けた点です。
驚愕!主役三人それぞれに作曲家がついている
とにかくこのゲームで一番驚いた…いえそれ以上に驚愕したのが、この【主役それぞれに別の作曲家を配置した】という点です。
実際にディレクターのデヴィッド・ケイジもゲーム史のなかで初の試みではないかと自信をみせていました。
同じアンドロイドでありながら、ゲームスタート時点では置かれた環境も人間に使える立場も思想(プログラムのレベル?)も違う三人の主人公たち。
ここからはそれぞれのキャラクターのメインテーマ、その音楽担当についてふれていきます。
コナー(捜査官アンドロイド)/ Nima Fakhrara
一人目の主人公コナーの音楽を担当したのはニマ・ファクララ。
コナーのテーマ曲は最も躍動感にあふれているので(捜査官だから)、トレイラーなどに使われることが多く、この作品を代表するパワーサウンドです。
演奏人数と迫力の乖離がすごいんだが…
ニマはイラン出身の作曲家でこれまでも数多くの映画やゲーム音楽に携わっています。
実は日本映画にも縁のある方で過去には『ガッチャマン(2013)』『アイアム・ア・ヒーロー(2016)』の音楽を担当。
ダイナミックなサウンド、電子系音楽が得意で、今回も緊張感のあるシーンからミステリアスなアクションパートまで完璧にコナーの世界観を表現しています。
今回の作品にあたり自作の新楽器も創作。コナーの心情の動きにも着目した、繊細なサウンドにも注目です。
カーラ(家事手伝いアンドロイド)/ Philip Sheppard
二人目の主人公はカーラ。家事手伝いの一般的なアンドロイドです。
彼女のテーマを担当したのは、映画音楽家としてすでに有名なフィリップ・シェパードです。
フィリップはイギリスの王立音楽アカデミーの講師も務める、イギリスを代表する演奏家でもあります。
60本以上の映画音楽を担当し、2012年のオリンピック、2015年のラグビーワールドカップにおいてはコンポ―ザーとしても活躍しています。
私がチェロ大好きだからかもしれませんが、三人のテーマのなかで一番好きなのはこのカーラのテーマでした。
心の琴線に訴えるかのようなこのゲームの作風に、繊細なチェロの音色がとてもよくマッチしています。
マーカス(革命家)/ John Paesano
三人目はマーカス。アンドロイドの未来を委ねられた存在です。
彼のテーマを担当したのはジョン・パエサーノ。
マーカスはストーリー上、最も核心に近いキャラクターになるので書けることが少ないのですが、ジョンは彼に荘厳な合唱曲をあてることでこの世界観を表現しています。
ジョン・パエサーノはなんとデトロイト出身!
他二人同様に映画音楽を手掛けており、とくに『メイズ・ランナー』シリーズで知られています。
三つの音楽(作品)を一つのゲーム(作品)に融合させる
この『デトロイトビカムヒューマン』の音楽がすごい点はそれぞれが秀逸ということだけでなく一本のゲームとして各キャラクターの音楽が一つに融合した、またはそれが自然にできたことです。
これは普通に考えても容易なことではありませんが、それぞれの作曲家は「脚本が同じだったからできた」と答えています。
これは本心からストーリーとキャラクターを尊重し、そしてプレイヤーに何かを感じとってほしいという情熱がなければ、なかなか出来ることではありません。
このシンプルでありながらプロ意識の塊である言葉に私はとても感銘を受けてしまい、さらにこのゲームとその世界観、そして音楽が大好きになってしまいました。
ゲーム音楽 これからの可能性
映画音楽同様、世界観を最優先に作られるゲーム音楽。
そこからさらに『デトロイトビカムヒューマン』は「キャラクター優先」にも舵をきりました。
この挑戦と成功に敬意を表しながら、改めて思います。
ゲームはもう“遊戯”ではないのかもしれないな、と。
もちろん遊戯である面も持続させながらでしょうが、一つのスポーツ、一つの教育、そして一つの「芸術」として確立しつつあるゲーム世界。
プレイヤーの没入感を支える大切な要素であるゲーム音楽の進化も、おそらくまだまだ止まらないでしょう。
シーンの切り替えと同時に目と脳と耳と指に響く旋律が、これからどんな姿になるのか、ただの一音楽ファンながら先が非常に楽しみになる体験をさせていただきました。