いつも上半期・下半期で、個人的によく聞いた曲を雑記としてまとめているのですが…
今回は、ブラック・アウト・チューズディをきっかけに聞いた曲が自然と多くなったので、そちらを「上半期によく聞いた曲」としてまとめていこうと思います。
色々なことがまだ落ち着かず、エンターティメントのいくべき方向もなかなか見えないままですが、やっぱり音楽のもつ力はすごいですね。シンプルにそう思った半年です。
過去の雑記よりは心して書いたつもりです…。よかったらどうぞ。
Lil Baby ー The Bigger Picture
これも彼がスターになる星のもとに生まれためぐり合わせなんでしょうか……
「自分が立つことで…」という強い信念を感じます。
2020年2月にリリースしたリル・ベイビーのセカンドアルバム『マイ・ターン』が全米チャート1位になった直後の、この世界変動。
タイトルと現状のオーバークロスにも不思議な縁を感じてしまいます。
アトランタ出身のリル・ベイビーは、天性のラップセンスやスキルをもつスターラッパー。加えて、ラップに対して勤勉な姿も垣間見える新進気鋭のアーティストです。
今回の曲には、鋭いながら一貫して「冷静であろう」とする彼のもつ芯の強さもうかがえます。
しかし「それでも立ち上がらなければならない」というジレンマ、そして「これ以上どうすればいいんだ」という、絶望と希望に揺らぐ気持ちも赤裸々に歌われており、その抑制と爆発のバランス感覚にリスナーはひきつけられます。
It's bigger than black and white It's a problem with the whole way of life
黒か白かってより 生き方の問題だろ
ここの力強さは何度聞いてもぐっときます。
意外におとなしいバックトラックも、彼のラップをじわじわと際立たせ効果的。生の温度、リアルな声を知りたいかたは必聴です。
H.E.R. ー I Can't Breathe
Started a war screaming "Peace" at the same time
平和を叫びながら 戦争がはじまる
この一節からはじまるこの曲。
ほかにもドキっとさせられる歌詞は多く、自分でも気づかぬうちに人種問題を自己完結していないか反省しました。
切々と淡々と…しかし熱をもった声を聞いていると、まるで1956年にタイムスリップしたかのような感覚にも陥ります。濃厚でまとわりつくようなマイルドボイスも、ここでは緊張感を保つ世界観に一役かっていますね。
ライブでも披露。
H.E.R. - Live Performance: Roots Picnic 2020
Stand Up - by Cynthia Erivo
2019年アメリカで公開した映画『ハリエット』のテーマ曲。
ブロードウェイのスーパースター、主演のシンシア・エリヴォがテーマ曲を熱唱しています。
“車掌”としてアメリカの奴隷をカナダに逃亡させ、アメリカ史上初アフリカ系アメリカン(この表現も今後どうジャッジされるのか…)として紙幣になった女性の勇姿を描いた伝記映画。
アカデミー賞でも披露され、多くのリスナーの胸をうちました。
キャッチーなメロディーラインであるにも関わらず、より濃度を強めていくブルースパッションは圧巻。
シンプルなリリックも、バックサウンドの濃厚な深みといいコントラストで、力強さと張り裂けんばかりの切なさが素晴らしいです。
時代的な流れのこともあるので一概には言えませんが、個人的には今回の Black Lives Matter でも前線に立てる曲だと思いました。
Alicia Keys - Perfect Way To Die
アリシア・キースによるニューシングル。今年は3年ぶりのニューアルバム『アリシア』もリリース予定。
息子を殺された母親の視点で歌われています。
わたしは、途中から涙が流れるのをとめられませんでした。アリシアの声をとおして、母親の苦しみと痛み、そして叫びが、心のなかにじわじわと染みこんでいき、その感情が自分でもやるせないほど切ないのです。
完璧な死に方など無い――――
だからこそ、意味をなさないこの言葉が力強く響くのではと語るアリシア。
その気持ちを優しく包む、切なく美しく儚いメロディーに、シンガーソングライターとしてのあるべき姿を見たような思いです。
彼女の曲は、様々な事象に対して眼差し・触れ方がとても美しく、人間的な温度を感じさせる良曲が多いのですが、そのなかでもこの曲は傑作ではないでしょうか。
これぞ、シンガー・ソングライター。
アリシア、本当にありがとう。癒しと痛みを分け与えてくれてありがとう。
Black & White (feat. Superfruit) by Todrick Hall
人種問題のみを扱っているわけではないけれど、すべての「ボーダー」に問題提起させる素晴らしい曲。なのにスタイリッシュ・ポップスなのも素敵。
ペンタトニックスのトリオ(スコット・ミッチ・カースティン)も参加してます。
――夢をみよう! でも、みすぎるな
という歌詞が的確すぎて。
何事もほどほどに、突き抜けるのは許しません…
そんな「白と黒」の世界への忠誠について、アイロニックに歌っています。
トドリック・ホールは、個人的に現代のレインボー・カラーの象徴のような人。
マルチに活動するアメリカのユーチューバーですが、もはやユーチューバーと言っていいか分からないほど活動しているので、もうマルチタレントとでも表記すべきでしょうか。
テイラー・スウィフトの 「You Need To Calm Down」の制作総指揮も担当し、MVにも出演。
彼自身オープンゲイで、セクシャルマイノリティーについての啓蒙など幅広く活動していますが、多くのことにアンテナを立てているアクティビストでもあります。
ペンタトニックスとも何度かコラボしていて、両者やりたいこと・伝えたいことが常に溢れ出ているすごい才能の持ち主です。
Tracy Chapman - Fast Car
このような問題が起こると必ず思い出す曲。
きっといつも頭の片隅にこの曲があるんだろうなぁ…。わたしと同じような方も多いんじゃないでしょうか。
最近ではジャスティン・ビーバーなどもカバーした傑作です。
うん。やっぱりこの曲でジャスティンの印象変わったもんな…。
トレイシー・チャップマンは、アメリカのフォークシンガー。
R&B、ロック、ポップスなど次世代音楽シーンが盛りあがっていく80~90年代において、ギター片手にシンプルな出で立ちと社会性のある楽曲で人々を魅了しました。
――あなたは速い車をもってる
その「あなたの」車に乗って、今ここではないどこかへ行けば、きっと生きるにマシな生活を送れる…。
自力ではどうすることもできない、悪循環な社会システムを訥々と紡ぐメッセージは当時の人々の心に響き、当時のグラミー賞では「最優秀新人賞」「最優秀女性ポップス・ボーカル賞」「最優秀コンテンポラリー・フォーク賞」の3部門を受賞。
デビューアルバム『Tracy Chapman』は世界で1000万枚のセールスを記録しました。
悲しいことに、当時の訴えと現在の訴えは変わらないままです。
この曲を聞くたびに(アメリカに関わらず)誰かが作り出した「社会システム」というものは、あまりに深く無意識にこびりついたものなんだな…と感じます。
Songhoy Blues - Soubour
かっこよすぎて耳が大変……。
今回とは関係なしに普段からよく聞いている曲。単純に耳が幸せになる。
Songhoy Blues(ソンゴイ・ブルース)は西アフリカに位置するマリ共和国ティンブクトゥ出身の4ピースバンド。ソンゴイとは自分たちの民族を指す言葉です。
2012年に始まったマリ北部紛争から逃れるため故郷を去ったのち、首都バマコで結成されました。
2013年に欧米ミュージシャンとアフリカ現地のミュージシャンとのコラボプロジェクトのパフォーマーとして選ばれ、その後ヤーヤーヤーズのギタリスト、Nick Zinner(ニック・ジナー)に紹介を受けます。
その後ニックと創られたのがこの「Soubour」(忍耐)です。
この曲は成功を治め、世界のミュージシャンの間でも話題に。
The Strokes のフロントマン、ジュリアン・カサブランカスのステージオープニングアクトに起用されるなど、その後も順調にキャリアを重ねています。
この音の濃さ…まじで大切にしていきたいよな…。
すべての音楽ジャンルが互いにインスパイアして進化してるって事実が、すべてのレイシストに伝わったらいいのに。
Something's Got A Hold On Me-Etta James
クリスティーナ・アギレラ主演の映画『バーレスク』でも記憶に新しい名曲。
エタ・ジェイムスはアフリカ系アメリカ人のブルース・ジャズ・R&Bシンガー。
ジャニス・ジョプリンやクリスティーナ・アギレラなど、後世のアーティストに多大な影響を与えたレジェンドシンガーとされています。
余談ですが「ローリングストーンの選ぶ歴史上最も偉大なシンガー100」では、22位がエタ・ジェイムス、28位がジャニス・ジョプリン、58位がクリスティーナ・アギレラ、と脈々と受け継がれている歌唱の系譜?が視覚化されています。
代表曲は「Tell Mama」や「
2011年にお亡くなりになりましたが、生前交流のあったアギレラが「At Last」を歌い、最大限の敬意と親しみをこめて、彼女をお見送りしていました。
Chloe x Halle - Forgive Me
もはや世界的スターとなったクロイ・ハリー姉妹。
ディズニー映画『リトル・マーメイド』のアリエルを妹のハリーが演じることも話題となりました。(キャスティング担当天才か……)
ビヨンセがその才能に注目し、自身のレーベルと契約したというのも納得。前オバマ大統領夫人ミシェル・オバマも彼女たちのファンと公言しています。
R&Bをベースに敷いていますが、彼女たちの音楽はよりダウナーで、より自由で、よりクリエイティブ。
それもそのはず、ほとんどの曲を姉妹がプロデュース。作詞・作曲までこなし、それに加えて姉妹の織りなす美しいハーモニーも効果的に添えられます。
やっぱり何度でも思いかえしちゃうけど、これだから音楽含め人間を「人種」なんて言葉で縛ることなんてできないよな…。そんなこと彼女たちの音楽性だけをみても当然不可能なわけだし、もっと言えば音楽ジャンルの線引きだってどこまで意味をなすのか…という疑問さえ浮かんでしまうわけで。
とにかく、ありとあらゆる創造性を刺激し前進する、すばらしい才能をもった二人。
6月にはニューアルバム『Ungodly Hour』をリリースしています。
SOMETHING HAS TO BREAK ー KIERRA SHEARD & TASHA COBBS LEONARD
いや声帯どうなってんねん……
もうね、音楽そのものに祈りたくなっちゃうぐらいの凄まじさ。うーん、言葉であらわすの、まじで無理かも。音の洪水といえばいいのか。音を浴びているといえばいいのか。
キエラ・キキ・シェアードはデトロイト出身のゴスペルシンガー。母親はあのクラーク・シスターズのカレンです。
母親の才能もさることながら、ゴスペルのイメージを覆すR&Bのスタイリッシュな音楽をベースに、その圧倒的な歌唱力・表現力で、一躍ゴスペル界のニュースターとなりました。
ゴスペル歌唱にこだわっていないかのようで、サビ以外はとてもチャーミングな声質。コラボ相手のターシャもグラミーにてゴスペル・クリスチャン部門を受賞するなど、超実力者。
日本でも『Let Go』含め3枚のアルバムをリリースしています。
とくに「
まとめ
2020年の上半期、もしかしたら音楽的な盛り上がりは例年より欠いていたかもしれません。
新作リリースどころではないし、命もかかっているし、社会も動かさなければならなかったから。
それでも「やっぱり、ひとは音楽なしには生きていけないかも」と改めて思ったことがたくさん、本当にたくさんありました。
またいつか、ライブ会場でおおいに盛り上がり、大人数の合唱を満員御礼のホールで鑑賞する…
そんな日がくることを心の底から願いつつ、先人たちの素晴らしい音楽とわたしたちと共に歩んでくれる今の音楽を糧に、日々生きていけたらと思います。