秋の夜長の楽しみの一つ。
それは安い(ここ重要)ワインと即席5分で作った肴をあてに、ぼっちで映画を見ること。これは絶対譲れない。
今年は映画産業も大変な窮地に立たされていますが、せめて映像に触れるときぐらいは心おだやかに作品の思いを受け止めたいものです。
さて、今回は近年見た映画のなかで、ストーリーとともに印象に残っている音楽をいくつかご紹介したいと思います。
個人的にはどシリアスな作品が好みなので、音楽も偏りがあるかもしれません。
ですが作品の重厚さに関わらず、その音楽を聞くだけで映画という膨大な情報を思い出せるのはすごいことだと思います。そうやって聞いてみると、映画音楽は非常に奥が深いものだったりします。
さぁ、たまには映画のストーリーに身をゆだねつつも、その音楽にしみじみと耳を澄ませてみてはいかがでしょうか。
※ネタバレ回避や音楽ブログということもあり、ストーリーにはほぼ触れていません。詳しくは予告動画をご覧ください。
- 1. Now You See Me 『グランド・イリュージョン』テーマ
- 2. Cerf volant(凧)『コーラス』挿入曲
- 3. Welcome to Lunar Industries 『月に囚われた男』メインテーマ
- 4. Who will know 『シン・ゴジラ』挿入曲
- 5. How Does A Moment Last Forever 『美女と野獣』挿入曲
- 6. スポットライト 『スポットライト』メインテーマ
- 7. ベイビードライバー サウンドトラック
- まとめ
1. Now You See Me 『グランド・イリュージョン』テーマ
- 原題『Now You See Me』(2013年米公開)
- 監督:ルイ・ルテリエ
- 音楽:ブライアン・タイラー
- 出演:ジェシー・アイゼンバーグ ほか
大作映画であればあるほど、印象に残る音楽を創るのは逆に難しい。
なぜならダイナミックな映像をひきつけるために音楽がバックサウンドになりがちになってしまうから。(さすがにポッターなどの長編シリーズであればそれを超えるけど)
そんな持論をもっているわたしでしたが、この曲はブライアン・タイラーにまんまとやられました。
イリュージョンをテーマとしているので、音楽も全編ミステリアスな雰囲気で構成されています。
中盤にはお得意のダイナミックなロック・オーケストラサウンドを投入。
そして極めつけの、めまぐるしく変わり続ける変拍子でこちらを圧倒していきます。
まさしくブライアン・タイラー流のイリュージョンサウンドです。
変拍子のパートだけピックアップしたバージョン。
ラモーンズ好き…?彼の音楽変遷も実に興味深い。
変拍子の変遷ですが…
4/4ではじまり、7/8→12/8→3/4→2/4→4/5 拍子を経て、また元の4/4に還っていくという変拍子よろしく
変態拍子
となっております。これがめちゃくちゃかっこいい!
この曲を投下する部分も実に的を得ていて、来るぞ…と分かっていてもゾクゾクしっぱなし。むしろ音楽主導なのでは…と思うぐらいの貢献度でした。
しかし、こんなことしてSなんだかMなんだか分かんないイケメンだ…
どっちもか。(褒めてます)
この曲のバックにアベンジャーズのシルエットが見えたあなた。
もう観念してこの人のファンになった方がいいかも…。(この映画でもバナー博士いたしだな…)
2. Cerf volant(凧)『コーラス』挿入曲
- 原題『Les Choristes』 (2004年仏公開)
- 監督:クリストフ・バラティエ
- 音楽:ブリュノ・クーレ、クリストフ・バラティエ
- 出演:ジャン=バティスト・モニエ ほか
コーラスをテーマにした作品は数多くありますが、この作品は圧倒的に素朴でノン・パーフェクトな歌唱が素晴らしく、未だ印象に残っています。
とても短い曲ですが、劇中のどの曲より開放的で同時にきゅっと心に染みる良曲です。
ストーリーはフランス映画特有のドキュメンタリーっぽく繊細な演出を全面にだした展開ですが、音楽パートになると画面全体がものすごい生命力で輝きだします。
コーラスの温度感も巧み。
コーラスはピッチが揃ってからがスタートラインになるわけですが、実際には雑多な音やノイズが入っており、その空気感そのものがコーラスの醍醐味だったりします。それをしっかりおさえた演出も視聴者を引き付けます。
しっかりピッチを合わせないからこそ、少年たちの奔放な様子や、物事に抗うガッツさが伝わり、見ている側は逆にあたたかな気持ちになるわけです。
ちなみに、主演の少年を演じたジャン=バティスト・モニエはこの時もどえらい美形でしたが、現在はまじやばい級の美形になっております。
3. Welcome to Lunar Industries 『月に囚われた男』メインテーマ
- 原題『MOON』(2009年英公開)
- 監督:ダンカン・ジョーンズ
- 音楽:クリント・マンセル
- 出演:サム・ロックウェル
印象に残るどころか、人生のなかで最も衝撃を受けた映画音楽です。
本編ではこの曲がぴったりと作品にフィットしているわけですが、その一瞬あとには何かが噛み合っていないような、そんな歪な不安感も生まれます。トラウマとはちょっと違うけれど、限りなくそれに似た執着性・憑依性をこの曲から感じるのです。
本編も低予算で制作された作品にも関わらずSFミステリーの王道をいく仕事ぶりで、これぞ映画という感じ。古きよきSFが好きな方は見て損はありません。
クリント・マンセルは、ポップ・ウィル・イート・イットセルフの元メンバーでリードシンガー兼ギタリスト。
映画音楽制作に携わってからは、閉鎖的で一点集中型のシリアス作品ととくに相性がいい印象があります。
この作品ではその技がいかんなく発揮され、一見地味な舞台にも多くのうねりや余白を与え、作品に奇妙な厚みを加えています。
数多くの賞を受賞した作品ですが、個人的に音楽の受賞がないのが驚きだったぐらい、映画音楽として驚嘆させられた一曲です。
ちなみに、邦タイトルも秀逸。
久しぶりに原題よりセンスがあると思ったタイトルです。こういうタイトルなら邦タイトルにする意味は十二分にあるのに…。
サム・ロックウェルのキャスティングは意外でしたが、これも実にハマリ役で独特の世界観を背負いきった素晴らしい演技だったのを覚えています。
4. Who will know 『シン・ゴジラ』挿入曲
公式であがっていなかったので、予告とともに。
ゴジラから放たれる痛々しさと絶望感をあますことなく表現した名曲の数々。どの曲もシン・ゴジラの世界観ぴったりで胸を鷲掴みにされました。
とくに「Who Will Know」が流れるシーンは絵的にも凄まじく、その相乗効果もあって今でも忘れられません。
それ故か、ゴジラにはオペラがよく似合うということも身に染みて分かりました。(庵野監督お得意だからというだけでなく)
人間の悲劇を背負ったゴジラは、まさにオペラの主役にふさわしい存在ではないでしょうか。
余談になりますが、わたしはいつがゴジラが小さな爬虫類か何か(?)になって、誰にも気づかれず、ひっそりと森に還っていく姿を待ち望んでいます。
そんなのストーリーも設定もめちゃくちゃだと分かってはいるけれど、はやく一つの生命体として幸せになってほしい……。わたしたちの罪でいつまでも雁字搦めなんて悲しすぎる。
いつかそんな映画を胸をはって作るような世界になってほしい。今でも本気で思っていたりします。
5. How Does A Moment Last Forever 『美女と野獣』挿入曲
この曲を聞いて瞬時に「見よう!」と思った物凄いパワーをもった曲。
静かで美しい旋律ですが、その中にある様々な思いがひたひたと伝わってくる、実に器が大きく豊かな一曲です。
まず驚くのが、アラン・メンケンの作曲の才能。これがまさに天井なし。
ここまで自身が手掛けたアニメの世界を踏襲しつつ、実写版のリアルな歌唱曲を創れるなんて、もう本当にすごいことです。
この曲はお決まりの場所で流れるのですが、それが劇中でとんでもない効果を与えます。
亡くなった旦那様のことを思うと歌うにとても苦しい曲だっただろうに、セリーヌ・ディオンもよく引き受けてくれたものだと、切なく有難い気持ちになります。
ただの我儘なのはわかっているけれど、彼女がこの曲を歌ってくれて本当によかった。ぜひ日本語訳もご覧になってください。本当に美しい歌詞です。
大人になると「ディズニーだから」と、ある一定の理解だけで見るのを敬遠してしまう方もいるかもしれません。
けれどこの作品には「なぜ人間は愛を語り続けるのか」(もしくは映画のように記録として録り、残し続けるのか)という、映画通をも唸らせるような普遍的なテーマが描かれています。
あまりに包み隠さず、愛のあたたかさ、そして「後ろめたさ」を語るので、わたしは自分でも予想外のシーンで胸打たれてから、ラストまで涙がとまらなくなったほどです。
この一曲にどれだけのことがちりばめられているか、ぜひ本編をご覧になって感じて頂けたらなと思います。
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6. スポットライト 『スポットライト』メインテーマ
この映画の質感がとても好きです。
ドキュメンタリーっぽさもあるけれど(実話なので)、あるときはそれ以上に乾いていて、またあるときはそれ以上の湿り気もあり、よくぞこの雰囲気を現実の不快感なくここまで表現できたなと思います。
その効果に一役も二役もかっているのが、ハワード・ショアのこの音楽。
もの悲しくも淡々と流れるサウンドなのに、根底には不屈のエネルギーを感じる。作品のカラーをこれ以上ないほどうまく表現した、とくにお気に入りのナンバーで、劇中では何度も流れます。
なんてことないこのジャケットの「一瞬」もすごく好き。
予告は派手ハデしいけれど、本編はどちらかというと北欧ミステリのように、淡々と地味に余韻をもって展開します。
撮影が日本人の方なので、無意識に性に合う画角だったのもこの映画にひかれた理由の一つかもしれません。
マーク・ラファロとレイチェル・マクアダムスは文句なしに素晴らしい演技でした。
神様にノーと言えますか?という言葉はショックだった…
7. ベイビードライバー サウンドトラック
BABY DRIVER - 6-Minute Opening Clip
- 原題:Baby Driver(2017年米公開)
- 監督:エドガー・ライト
- 音楽:スティーヴン・プライス
- 出演:アンセル・エルゴート
プロモーションから予想はついてたとはいえ、このオープニングが信じられないくらいかっこよかった。(監督、スバルを選んでくれてありがとーーー!!)
車好きと音楽好きのやりたいことがすべて詰まっていて、そのピュアな美しさや哲学(かっこつけも含む 笑)は、もはや素晴らしすぎて笑っちゃいました。
この映画はオリジナルの映画音楽というより、映画サウンドトラックとしての構成が、あまりに美しく印象に残っています。
渋かっこいいのにジャケットのピンクが「ベイビー」ってかんじで、もう痺れるのなんのって!
JSBXの曲にはじまりバリー・ホワイトやダムドなど、エドガー・ライトは映像より音楽探しに労力かけたんじゃないか?ってぐらい、プライドを賭けた選曲です。
時代やジャンルが違っても、一つの映像作品でここまでうまく料理されると「音楽はみなブラザー」感が増すからすごい。
ラストはもちろんサイモン&ガーファンクルの「ベイビードライバー」で。この幕引きも素晴らしく、最初から最後まで音楽のかっこよさが際立ちます。
先ほどは冗談で音楽先導…なんてのたまりましたが、ストーリーも思いのほか上手く締まっていて、映画としても非常に満足度の高い作品でした。
そしてヒロインのリリー・ジェイムズが気絶するほどかわいかった…。
この手の映画は懐古主義って言われても、好きなものはしゃーないよね……(自嘲)
まとめ
映画音楽は、ストーリー以上に目立ってはいけないし、かといってストーリーを牽引し底上げもしなくてはならない、非常にバランス感覚が求められるパーツだと思っています。
そんななかで、ストーリーに集中しながらも頭のどこかに響き続けている曲というのは、単体の音楽としても映画音楽としてもとてもその個人に合った特別な曲になっているのではないでしょうか。
ぜひ映画を見るさいには、その作品の音楽にも注目してみてください。
音楽から映画のもつメッセージを豊富に受け止めることもできるかもしれません。
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