ここまでライティングの勢いを維持し続けるパワーの源は何だろう。
UKロックが翳りを見せ始めた2010年代を経て、音楽ビジネスの停滞を余儀なくされたこの時代に、彼女たちのサウンドはその闇をかき分けるように、どんな時でも真正面から心に刺さり続けます。
先月は Music Avenue Trust への資金を呼びかけるオンラインライブ “Five 4 Five”のヘッドライナーにも抜擢されたYONAKA。
Music Avenue Trust とはイギリスの小規模ライブハウスなどの支援を目的にした音楽慈善団体。Covid-19の状況下においても、各ライブハウス存続のために様々なサポートや呼びかけを行っています。
ダークな中にキラリと光が見えるサウンドは、確かに今聞くにもってこいの音楽なのかもしれません。
メンバーと略歴
YONAKAは2014年から活動しているイギリスはブライトン出身のロックバンド。
メンバーは
- Theresa Jarvis ボーカル
- George Edwards ギター
- Alex Crosby ベース
- Robert Mason ドラム
今までにEP3枚、スタジオアルバム『Don't Wait 'Til Tomorrow』1枚をリリースしています。
こちらのアルバムは筆者も大好きなレーベル Fueled by Ramen(ワンオクも在籍)からリリースされています。
2018年にはブリング・ミー・ザ・ホライズンのヨーロッパツアーにも帯同。
2019年には The Kerrang! Awards にて、新人賞にもノミネートされており着実に勢いをつけています。
前述の Five 4 Five のヘッドライナーもその熱を受けての抜擢ではないでしょうか。
また2019年にリリースされたブリング・ミー・ザ・ホライズンのEP『Music to Listen to~』では YONAKA と共演したナンバー“Tapes”も収録されています。
ややこしいEPで仕事したな…という率直な感想もよぎります(笑)
YONAKA=夜中
読んで字のごとく、彼らのバンド名である“YONAKA”は日本語である“夜中”に由来しています。
ボーカルのテレサの友人が日本とのミックスで、この言葉を知ったとのこと。
夜中の意味する“midnight” 感が気に入ったようで、彼らの音楽性であるダークサウンドにも共鳴することからこの名前に決定したのだそうです。
個人的に、この「夜中」に溜め込んだパワーを明け方にぶちかまそうと虎視眈々と狙っているようなイメージが、彼女たちのサウンドと重なったりしています。
オススメ曲
YONAKAの音楽はダークなエネルギーを放出しつつ、かつ非常にエモっぽさ残るサウンドが特徴です。
テーマの一つに「メンタルヘルス」への理解や向上があり、彼女たちのファーストアルバム『Don't Wait 'Til Tomorrow』もそれらについての思いを中心に曲が展開されます。
怒りや失望にかられたときだからこそ感じる孤独への向き合い方について、彼女たちは曲のなかで思いを明確に伝えており、それらの歌詞に共感するファンも多くいます。
YONAKAの音楽がここまではっきりと輪郭をたどれるのは、こうした自分自身との葛藤をしっかりと音楽にぶつける手段を心得ているからなのかもしれません。
ここでは、そんな彼女たちの音楽のなかでとくにオススメしたい曲をご紹介します。
Seize the Power
2021年1月にリリースされたYONAKAの新章に位置付けられた最新曲。
ダークさはパワーアップしつつもヒップホップとプレコーラス部分の対比が何とも美しい構成になっています。
ダークさに加え“ナイトメア”感もプラスされ、新たなパワーの躍動を感じる意欲作になりました。
Don't Wait 'Til Tomorrow
アルバムタイトル曲。
“君がつらいとき私に電話すること、明日まで待たなくていいんだよ”
という、孤独や不安に寄り添った一曲。
歌詞は100%頼りがいのある手を差し伸べつつ、サウンドは“つらい側”のカオスな心情やもう頭ぐるぐる!な精神状態をあらわしているのが何とも優しい。
こんな気持ちのとき、このサウンドでこの歌詞を聞いたら、きっとどんなに美しい曲よりも前向きに溺れにいけちゃうだろうな…と思います。
そしてギターをあそこまであげてプレイしてる人を久しぶりに見ました…
Bad Company
自分の望まない状況から逃れられないとき、人はどのようにそこから脱出、または解決していくのでしょうか。
いろいろなことが頭をよぎって夜も眠れない…多くの方が経験されていることだと思います。
頭では「この状況は永久には続かない」と分かっていても、逃れたいのは今すぐなわけで…。
そんな不安な心情と冷静を保とうと闘っている現状を歌った曲。個人的にとくに共感できる曲でした。
Bubblegum
エキゾチックなコーラスが印象的な一曲。EP『Heavy』収録。
ヒップホップベースに作られているのが今のYONAKAにも共通しています。彼女たちは様々なサウンドを駆使しながら曲の全体像を「整えていく」のが上手いバンドですね。
ボーカルもハスキーにひっかかるのが小気味よく、何度聞いてもノレる曲に仕上がっています。
メンタルヘルスを歌う意味
日本ではまだまだメンタルヘルスについての理解や受け入れが進んでいない部分が多いと感じます。
メンタルヘルスと一言で言ってもその要因や結果的にいきついた症状は人それぞれで、たどった経験や自己救済のストーリー(他者に相談できないときの経験)までを含めると、それはもう天文学的数字の道程が一人の人間のなかに横たわっていることになります。
それが分かっているからこそ、
“無暗にふれないでおこう”
という気持ちが先行してしまうのかもしれませんが、無関心と静かに見守るという行為は違います。
そしてメンタルが傷ついた側の人間からすれば、その違いは一瞬で感覚的に分かるものです(そもそもそのあたりの感覚がキンキンに研ぎ澄まされている状態なので)。
個人間の問題よりも、まずは社会全体で取り組んでいかなければいけない問題だと思うのですが、なんせその社会の思考が遅い。
例え休日補償や相談役が配されていても、それを使えるような空気じゃないな…と思うシーンもこれまでに何度も見てきました。
これについては周囲との乖離含め、別の機会にしっかり音楽と絡めてまとめていきたいのですが、
とりあえず社会が遅いならば個人間のスピードをあげるしかない!という思いもあって、今回YONAKAの音楽を紹介させて頂きました(聞きやすいですしね)。
日々何気なく聞いている、かっこいいギターサウンドの中に、唸るベースラインの底に、轟き響き渡るドラムの躍動に、
自分のメンタルを救ってくれるかもしれない鍵があることを、ぜひ頭の(心の?耳の?)片隅に残して頂けたらな、と思います。
今回もお読み頂きありがとうございました。